不思議鉄道金町線…追憶の彼方より…
・・初めてじゃない、この景色を見るのは・・
これは、夢に見た景色だ。
柴又を出ると、まもなく電車は高架線を
上がって右に大きく曲がり、高砂駅に入る。
高砂駅にある車両基地の景色を見たことにより、子どもの頃に見た記憶が鮮明に帰って来た。
高架駅のホームを降りると、金町線のホームからは長いスロープを下り、一度改札を出る。
上野行きは更に改札を通り、階段を降りるのだが、その景色には覚えがあった。
ただ、過去の記憶では金町線は一度も乗ったことが無い。
記憶は夢、それも子どもの頃に見た夢の光景だった。
・・変な夢だった・・
乗り慣れた京成電車だが、夢に現れたのは知らない駅。
しかも、一度電車を降りると、長いスロープを下り、改札を二回通り、階段下の
恐らく、本線の電車に乗り換えた、そんな、不思議なリアリティある映像。
いや、夢は本線の電車から降りて、階段を上り、改札を二回通り、スロープを渡って金町線の電車に乗った、その順番だったようだ。
・・夢に現れた光景を逆に辿り、夢のままだった記憶が、それは実在することを確認する。
何処だったか分からないが、断片的な映像がはっきりと見えた、その夢。
それは京成本線から金町線への乗り換えの経路、そのままだった。
・・妙にはっきりと絵が見え過ぎて、気持ちが悪くなり、見たことさえ今迄記憶を封印していた。
しかし、それは現実にある光景だった。
長いスロープ、賑やかな改札。なぜか改札は二度通る。階段を降りて、また京成電車に乗る。夢は逆の流れで乗り換えたが。
・・きっと、もの心付く前の記憶が埋もれていて、数年経って思い出したのだろう。車両基地の光景。今はもう無い、赤電、青電。シルバーの荷電。ベージュのスカイライナー。
大人になって、しかも子育てもそろそろ終わりの中年になって、今更何でこんなことを思い出したのだろうか。
・・それが金町線の不思議なマジックなのかも知れない。全ての人の記憶を昭和に閉じ込めて、金町線は短い線路を往復するのだ。・・